年金とライフステージの変化を考慮すれば、FIREに必要な資産は想像より少なくなります。
「FIREには1億円以上必要」
そんな情報を見て、不安になっていませんか?
FIREについて調べ始めた頃、私も年間支出の25倍という4%ルールの数字を、そのまま資産形成の目安にしていました。
しかし、自分のFIRE後の生活を具体的にシミュレーションするうちに、少しずつ違和感を持つようになりました。
一つは、65歳以降に受け取る公的年金が計算に含まれていないこと。もう一つは、資産を減らさずに一生暮らすという前提そのものが、必ずしも自分に合っていないと感じたことです。
築いた資産を人生の最後にできるだけ多く残すより、子どもと過ごせる時間や体力のあるうちに、経験や満足度に変えていきたい。
そう考えるようになり、教育費・老後支出・年金をすべて数値化して検証した結果、資産9000万円でサイドFIREに向けて準備を進めることにしました。
見えてきたのは次の2点です。
- 4%ルールだけでは判断できない
- 年金を考慮すると必要資産は大きく変わる
この記事では、年金とライフステージの変化を織り込んだ、現実に近いFIRE資産の考え方を数字で解説します。
- FIREに必要な資産の正しい考え方
- 4%ルールの本質と限界
- 日本の平均データを使った支出シミュレーション
- 実例ベースのFIRE成立条件
FIREに必要な資産は「25倍」では決まらない
FIREの必要資産は単純ではありません。
なぜ25倍では判断できないのか
| 項目 | 4%ルールの想定 | 現実 |
|---|---|---|
| 年金 | 考慮しない | 重要な収入 |
| 資産 | 減らさない | 使いながら減らす |
| 支出 | 一定 | ライフステージで変化 |
FIREは「自分の条件」で設計する必要があります。労働収入を組み合わせる働き方も含めて考えると、必要資産はさらに変わってきます。そうした柔軟な働き方の考え方は「サイドFIREとは?フルFIREとの違いと現実」で解説しています。
4%ルールとは?必要資産25倍の正体
4%ルールとは、毎年4%ずつ取り崩しても資産が長期間持つという考え方です。仕組みの詳細は「4%ルールとは?FIRE初心者向けにわかりやすく解説【日本での注意点と現実的な戦略】」にまとめているので、ここでは要点だけ確認します。
計算例
| 年間支出 | 必要資産 |
|---|---|
| 300万円 | 7,500万円 |
| 400万円 | 1億円 |
| 500万円 | 約1億2,500万円 |
メリット
計算がシンプルで、大まかな目安をすぐに掴めることです。
私自身、年間支出を450万円と仮定し、「450万円×25=1億1,250万円」と概算したことがあります。複雑なシミュレーションをしなくても、支出に25を掛けるだけで必要資産のイメージが持てました。
ただ、この数字を見て「結構大変だな」と感じたのも事実です。しかも全資産を運用に回す前提のため、生活防衛資金として現金を別に持つなら、実際にはさらに多い資産が必要になります。
それでも4%ルールを目安として受け入れやすかったのは、トリニティ・スタディという研究に基づいた考え方だったからです。何となく決めた数字ではなく、過去の市場データで検証された数字だと知り、当時の自分には納得感がありました。
デメリット
- 年金を考慮していない
- 資産を減らさない前提
- 現実とのズレがある
4%ルールが現実とズレる3つの理由
| 理由 | 内容 |
|---|---|
| 日本には年金がある | 老後収入の柱になる |
| 資産は減ってもよい | 取り崩しながら、生涯で使い切る形も選べる |
| 支出は変わる | 老後は減る傾向 |
具体例
生活費:430万円 年金:340万円
不足は90万円。
年金受給後の必要資産は「430万円ベース」ではなく「90万円ベース」で考えることができます。
当初、私は年間支出の25倍という数字だけを見て、「FIREには1億円以上必要で、まだかなり遠い」と感じていました。しかし年金や支出の変化を一つずつ組み込んでいくと、必要な資産額の見え方はまったく変わりました。4%ルールで必要資産を考えたこと自体が間違いだったわけではなく、そこから自分の状況に合わせて計算し直したことが、本当に必要な資産額を考えるきっかけになったと思っています。
DIE WITH ZERO(ダイ・ウィズ・ゼロ)視点で考えるFIRE戦略
資産は「使い切る前提」で考えると、また違った景色が見えてきます。
| 観点 | 4%ルール | ダイウィズゼロ |
|---|---|---|
| 目的 | 資産維持 | 人生(満足度)の最大化 |
| 資産 | 減らさない | 計画的に使う |
資産をどう取り崩していくかという選択肢は「FIRE後の資産取り崩し戦略|定額・定率・バケツ戦略を徹底比較」で比較しています。
重要なのは、資産を「いくら持つか」ではなく「どう使うか」です。
日本の平均データから見る「支出の変化」
実際の支出はライフステージで大きく変わります。
子どもの教育費
教育費は期間限定の支出です。総務省統計局の家計調査データを参考に見てみると以下の通りです。
| 区分 | 年間費用 |
|---|---|
| 小学校(公立) | 約30〜40万円 |
| 中学校(公立) | 約50〜60万円 |
| 高校(公立) | 約60〜70万円 |
| 大学(私立理系) | 約130〜180万円 |
老後の生活費
| 区分 | 年間 |
|---|---|
| 現役世帯 | 約420万円 |
| 老後夫婦 | 約330万円 |
老後の生活費は現役世帯より減少することが多く、ここでは約90万円の減少を想定しました。総務省統計局の家計調査によると、夫婦世帯(65歳以上・無職)の年間支出は約308万円です。
実際の我が家の支出内訳は「FIRE後の生活費はいくら?リアルな支出を公開」で公開しています。
支出はこう変化する
| 年齢 | 状態 | 年間支出 |
|---|---|---|
| 40〜60歳 | 子育て期 | 約430〜550万円 |
| 60〜65歳 | 教育費終了 | 約350万円 |
| 65歳以降 | 老後 | 約330万円 |
支出は一定ではありません。子育て期は教育費によって大きく増加しますし、ライフスタイルの変化により前後します。
このことからFIREは
「今の生活費×25倍」ではなく、将来のライフスタイルや収入を見込んで考えるべきです。
【実例】資産9000万円でFIREできるか検証
前提条件
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 資産 | 約9,000万円 |
| 年間支出 | 約430万円 |
| 配当収入 | 約120万円 |
| 年金 | 約340万円 |
| 運用利回り | 3% |
この資産をどう13年かけて築いたかは「13年で資産9000万円達成|リアルな資産推移と再現性ある投資戦略」で公開しています。
利回り3%の前提となっているポートフォリオの中身は「資産9000万円のポートフォリオ公開|配当・成長・取り崩しでサイドFIREを実現する方法」にまとめています。
年金額は現時点の見込みをもとに、やや低めに置いています。年金は制度改定や加入期間で変わるため、ここは各自の見込み額に置き換えて考えてください。この数字の置き方ひとつで、後の結果は大きく動きます。
4%ルールでの判定
430万円 ÷ 0.04 = 1億750万円
不足と判断されます。
しかし、考え方を変えて次のように考えてみます。
ステージ別キャッシュフロー(レンジ評価)
※本シミュレーションは安全側(支出高め、収入低め)で設計しています。
① 子育て期(40〜60歳)
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 支出 | 430〜550万円 |
| 収入 | 120万円 |
| 収支 | ▲310万〜▲430万円 |
② 教育費終了(60〜65歳)
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 支出 | 350万円 |
| 収入 | 120万円 |
| 収支 | ▲230万円 |
③ 老後(65歳〜)
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 支出 | 330万円 |
| 年金+配当 | 460万円 |
| 収支 | +130万円 |
この計算は、いまの物価水準で見た場合のものです。実際には支出も年金も年ごとに変わっていきます。物価上昇を織り込むと結果は変わってくるので、その検証は後半で扱います。
前半は取り崩し、後半は年金で支える
前半は年金もなく教育費も必要なステージのため、資産の取り崩しを行う想定です。
65歳以降は、年金受給を含めるとキャッシュフローが改善します。
- 前半:取り崩し
- 後半:年金+配当で支出をカバー
4%ルールでは1億750万円が必要という判定でしたが、この設計なら9,000万円でも成り立つ計算になります。年金という収入を計算に入れるかどうかで、必要資産の見え方はここまで変わります。
物価上昇まで織り込んだ、実際のシミュレーション
ここまでは現在の物価水準での計算でした。実際には、生活費も教育費も年々上がっていきます。
私はスプレッドシートで、物価上昇率を年2%として45年分の家計を試算しています。年金についても、マクロ経済スライドを踏まえて物価上昇より低い年0.5%の改定率としました。制度上、年金は物価上昇に完全には連動しないためです。
主な前提
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| リタイア時期 | 40代後半 |
| 開始時の資産 | 約9,000万円 |
| 退職金・持株の現金化 | 夫婦合わせて約2,800万円を見込む |
| 住宅購入 | 3,500万円を見込む |
| 物価上昇率 | 年2% |
| 年金改定率 | 年0.5% |
| 医療・介護の上乗せ | 75歳以降、年60万円 |
年金は不利側に置いています。物価上昇率を年2%とする一方、年金の改定率は年0.5%としました。マクロ経済スライドという仕組みで年金の伸びが物価上昇を下回るためですが、45年間この差が開き続けるというのは、かなり厳しい見方です。楽観的な前提で「足りる」という結論を出しても意味がないので、迷ったときは不利な側を選んでいます。
退職金と持株の現金化で約2,800万円が入る計算ですが、これはそのまま住宅購入の3,500万円に充てる想定です。資産を増やす原資ではありません。実際、リタイアの年に資産は約900万円減る試算になっています。
資産推移
| 年齢 | 資産 |
|---|---|
| リタイア時 | 約9,000万円 |
| 65歳 | 約4,300万円 |
| 75歳 | 約4,600万円 |
| 85歳 | 約3,000万円 |
| 90歳 | 約800万円 |
資産の底は65歳で、約4,300万円まで減ります。教育費と住宅購入が重なる期間を、年金なしで乗り切るためです。65歳から年金が始まると取り崩しのペースが落ち、75歳まではむしろ資産が増えます。その後は医療・介護費の上乗せもあり、再び減少に転じます。
この試算では、90歳代まで資産が持つ結果になりました。不利側に寄せた前提でこの結果なので、条件が想定通りに進めばもう少し余裕が出ます。4%ルールが示した1億750万円には届きませんが、それでも生涯の家計は回る計算です。
ただし、45年先の家計を正確に予測することはできません。物価上昇率が0.5%違うだけで、45年後の必要額は2割以上変わります。年金制度も、教育費も、自分の健康状態も動きます。詳細に詰めることには限度があり、大事なのは一度計算して終わりにせず、年に一度でも数字を更新していくことだと考えています。私自身、このシミュレーションは資産額や年金の見込みが変わるたびに作り直しています。
一方で、簡易計算では「65歳以降は毎年130万円の黒字」でした。物価上昇を織り込むと、資産が尽きる年齢が見えてくるところまで結果が変わります。4%ルールのような簡易な計算だけでFIREを判断すべきではない理由が、ここにあります。
より詳細な計算プロセスは「資産9000万円でFIREできる?40代公務員が本気で計算してみた結果」でも取り上げています。
自分でできるFIREシミュレーション
計算式
(生活費 − 年金 − 資産収入)× 年数 = 必要資産
例
生活費:400万円 年金:250万円 配当:50万円
不足100万円 × 30年 = 3,000万円
まずはこの式で、自分の年金額を入れて計算してみてください。そのうえで、年金受給までの期間をどう過ごすかを設計していくことになります。
FIREで後悔しないための注意点
FIREは「資産が足りるか」だけでなく、運用の仕方や心理面も大きく影響します。実際に後悔しやすい4つのポイントを解説します。
序盤の取り崩しリスク(最も重要)
FIRE直後は資産が最も多いタイミングですが、同時に最もリスクが高い時期でもあります。
特に注意すべきなのが、相場の下落と取り崩しの重なりです。
- FIRE直後に株価が下落する
- 資産が減った状態で取り崩しが発生する
- その後の回復力が弱くなる
この現象は「シーケンスリスク」と呼ばれます。同じ利回りでも、下落のタイミングが早いか遅いかで、最終的な資産は大きく変わります。
対策:生活防衛費として2〜3年分の現金を確保する
物価上昇(インフレ)
先ほどの試算で見た通り、物価上昇を入れるかどうかで結果は大きく変わります。
厄介なのは、支出は物価に連動して増えるのに、年金は同じペースでは増えないことです。マクロ経済スライドという仕組みにより、年金の改定は物価上昇を下回るよう調整されます。年2%の物価上昇に対して年金改定が0.5%なら、その差は毎年1.5%。40年続けば、年金の実質的な価値はおよそ半分になります。
- 現金の比率を上げすぎない。株式は長期的には物価上昇に追随してきた資産です
- 年金は少なめに見積もる。私は現時点の見込みより低い数字で計算しています
- 支出を調整できる余地を残す。物価が想定以上に上がったとき、削れる項目があるかどうかで耐久力が変わります
お金を使えない問題(意外と多い)
FIRE達成後に多くの人が直面するのが、お金が減ることへの不安から支出を抑えすぎてしまう問題です。長年節約や投資を続けてきた人ほど起こりやすい傾向があります。
私自身も、1億円以上を貯めてからでないとFIREできないと考えていた時期がありました。ただ、その金額に届くまで働き続ければ、子どもが小さい時期も、体力のある時期も、そのぶん先に過ぎていきます。今しかできないことを後回しにしてまで資産を積み上げるのは、自分の目的とずれている。そう感じたことが、必要資産を計算し直すきっかけでした。
- 年間の支出予算をあらかじめ設定する
- お金を使う目的(家族や経験など)を明確にする
- 資産推移を定期的に確認して安心感を持つ
長生きリスク(見落とされがち)
FIREでは資産が尽きるリスクに注目が集まりがちですが、想定より長く生きるリスクも見落とせません。
- 90歳までを想定していたが100歳まで生きる
- 医療費や介護費が増加する
- 想定以上に資産が必要になる
私の試算も90歳代までは持つ結果でしたが、その先は保証されていません。だからこそ、少額でも収入を得る手段を持っておくことや、支出を見直せる余地を残しておくことが備えになります。
- 年金を前提に設計する
- 老後は支出が下がる前提を織り込む
- 余裕資産(バッファ)を確保する
まとめ

FIREに必要な資産は一律ではありません。
重要なのはこの3つです。
- 年金を考慮する
- 支出は変化する
- 資産は使いながら設計する
4%ルールでは1億750万円が必要という判定でしたが、年金と支出の変化を織り込むと、9,000万円でも生涯の家計は回る計算になりました。必要資産は、想像より下がります。
ただし、物価上昇まで入れると資産には終わりが見えてきます。だからこそ、一度計算して終わりではなく、定期的に見直していく前提で考えています。
最後に
FIREは「お金の問題」ではなく、人生の時間とお金をどう使うかという設計の問題です。
資産を減らさないことを前提にするのではなく、必要なタイミングでお金を使い、人生全体で最適化することが重要です。
正しく設計すれば、子育て世帯でも、平均的な収入でも、無理なく現実的に実現できます。
お金は増やすためのものではなく、人生の満足度を最大化するために使うものです。FIREとは、資産を守る生き方ではなく、限られた時間をより良く使うための選択肢です。
年金受給後を含めた最終的なシミュレーションは、今後公開予定の記事でさらに詳しく扱う予定です。

